2013年

1月

25日

【判決温故知新】アモキサン過量服用死亡事件:遺族によるカルテ開示申請後、電子カルテが改ざんされたとの事実を認定

大阪地方裁判所平成24年3月20日判決(一部認容・控訴)

【出典】判例タイムズ1379号167頁

 

三環系抗うつ薬アモキサンの過量服用で40代女性が死亡した事例に対する一審判決です。

 

午前5時ころ、夫は、患者本人より未明に大量服薬した事実を聞かされましたが、過去の過量服用時の症状は傾眠傾向が主であったことから、朝になったら処方した被告医院に受診しようと考えていたところ、午前7時台になって患者が四肢痙攣を来たしました。その時点で患者は救急搬送とされたものの、同日午前11時台に薬物中毒を原因として死亡しました。

 

裁判所は、患者に対して過量服用しないように指導しているため、患者本人に対して過量服用した場合の措置を指導することは適切ではないとしましたが、それまでの療養状況や生活状況を踏まえた上で、患者の夫に、患者が過量服用した場合には、医療機関の診療時間でなければ119番通報することも含めて直ちに医療機関を受診するよう指導する必要があるとして、その点について注意義務違反を認定しました。

 

被告医院は、電子カルテ上の記載に基づいて、患者に大量服薬の危険性を説明した、大量服薬するなら処方を中止すると告げた、夫に対しても薬剤管理の徹底を指導した、夫もこれを了承していたと主張しました。

 

しかし、裁判所は、これらの記載が、遺族である夫がカルテ開示申請を行った後になって記載されたものであること等に基づいて、改ざんであると認定し、被告医院の主張を退けました。

 

本件は、カルテ開示申請が改ざんの引き金となりうることを示す残念な実例です。カルテ開示が普及しつつある現在においても、証拠保全手続によるカルテ入手の必要性が否定されるものではないと考える必要があります。

 

本件の「電子カルテ」は、書き換えると書き換え前の記載を復元できない設定となっていたとのことです。このような設定が可能となっていたのであれば、電子カルテシステムに要求される3要件(真正性・見読性・保存性)のうち、真正性の要件から逸脱していることとなり、医師法24条の診療録作成義務への違反も疑われるところです。

 

なお、本記事作成現在の時点で、控訴審の結果に関する情報は得られませんでした。

以下、判決本文より抜粋。

イ 原告太郎は,同年5月12日,被告医院に対し,本件患者のカルテの開示を求めた。被告乙川は,同月15日,同月22 日及び同月23日に電子カルテである本件患者のカルテの一部を書き換えた後,同月26日,書換え後のカルテを原告太郎に開示した。なお,上記カルテは,当 時電子カルテでありながら,書き換えた際に書換え前の記載が保存されない設定になっていた。
(甲A6,乙A1,乙A2,乙A7,原告太郎本人,被告乙川本人,弁論の全趣旨)

(4)事実認定の補足説明
 上記認定につき,本件患者の電子カルテに,別紙診療経過一覧表の「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断)」欄記載のとおり,被告乙川において,本件患者が過量服薬した後の受診時に,本件患者又は原告太郎に対し,平成17年2月18日に大量服薬の危険性について説明し,同年3月7日,平成18年3月27日,平成19年2月10日にそれぞれ大量服薬について厳重に注意し,平成17年9月21日,平成18年4月10日,平成19年2月24日にそれぞれ大量服薬を行うのであれば薬剤の処方を中止する等と告げ,また,原告太郎に対し,同年1月29日,同年2月10日及び同月24日にそれぞれ薬の管理の徹底を指導し,原告太郎がこれを了承した旨の記載があり,被告乙川の陳述書(乙A7)及び本人尋問中には上記記載に沿う供述記載部分又は供述部分がある。
 しかし,上記カルテの一部が,本件患者の死後,被告乙川によって書き換えられていたこと(上記(3)イ),上記カルテが,当時電子カルテでありながら,書換えた際に書換え前の記載が保存されない設定になっていたこと(上記(3)イ),被告乙川の上記主張に係る診療日のカルテについては,いずれも被告乙川が上記開示請求後に新たにカルテのデータを保存することになる「登録」キーをクリックしていること(甲A6,乙A2,原告太郎本人,被告乙川本人),被告乙川は,上記乙A7(陳述書)及び本人尋問において,いったん画面を開いたカルテの画面を閉じる際には,常に「登録」キーをクリックする習慣になっており,上記開示前に上記カルテの内容を確認しようと考え,画面を開いて上記カルテの内容を確認した上で明らかな記載漏れや誤字のみを訂正したと弁解をしているが,実際には,上記カルテのうち,「処方・手術・処置等」以外の部分のうちの一部のみにつき「登録」キーをクリックしており(甲A6,乙A2,原告太郎本人),上記弁解が不合理であること,上記認定のとおり,原告太郎は,当初は,本件患者に処方された薬剤を管理していたものの,平成18年4月13日に本件患者が鍵のかかった手提げ金庫をこじ開けて過量服薬したことが原因で,自らも過量服薬した後は,本件患者に処方された薬剤の管理をしなくなっており,また,平成19年1月23日の受診時には,被告乙川に対し,自らの抑うつ症状の悪化で出勤することが困難な状態である旨を訴えていたものであるところ,そのような原告太郎が,被告乙川から上記薬剤の管理を徹底するよう指示されてそのままこれを了承したとは考えられないことに証拠(甲A5,甲A6,原告太郎本人)を併せれば,被告乙川は,被告太郎から上記カルテの開示請求を受けた後,上記カルテを改ざんし,上記各記載を付加したものと認められる。したがって,上記各記載は,上記認定を左右しない。

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弁護士 堀 康司
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