【判決温故知新】カルテ不記載の評価

■東京地裁平成4年5月26日判決(判タ798号p230)

 ===以下引用===

3 被告は、本件入院時、和美の血圧を測定しなかったことを否認し、その本人尋問において、和美の入院時の血圧が最高一六〇程度であり、最後の妊婦健診の時である三月二二日より低値であったため安心した旨の供述をしている。


 しかし、被告医院のカルテ及びその付属書類(〈書証番号略〉)に右の時点における血圧結果の記載がないことは、同号証によって明らかであり、被告も自認 するところ、カルテは、医師法二四条により医師がその作成を義務付けられ、診察治療に際してその内容及び経過に関する事項をその都度、経時的に記載すべきものであって、また、カルテは、看護日誌等これに付属する補助記録とともに、医師にとって患者の症状把握と適切な診療のための基礎資料として必要不可欠な ものであるから、記載の欠落は、後日にカルテが改変されたと認められる等の特段の事情がない限り、当該事実の不存在を事実上推定させる上、前示一2(一) の事実を〈書証番号略〉と対照すると、被告は、和美の初診以降、診察ごとに血圧を測定し、これを必ずプレグノグラムにグラフ形式で記載していたと認められ ること、前示一2(五)の状態からして、本件入院時、被告は、診断・処置内容をもれなく記載する余裕・機会は十分あったこと、カルテとともに編綴された看護日誌には、本件入院時の和美の子宮や児心音の所見については記載があることが認められ、カルテ及び看護日誌に血圧だけ、その記載が漏れたというのは不自 然であることを指摘でき、これらを併せ考えると、被告の右主張・供述は採用することはできず、他に前示認定を左右するに足りる証拠はない。

 ===以上引用===


■大阪地裁平成7年12月20日判決(判タ911号187頁)


 ===以下引用===

四 被告の責任について
1 観察義務及びカルテ記載義務
(一)前記のように、新生児核黄疸は、治療時期を逸すると新生児に回復不可能な脳障害や死に至らしめる危険性がある。したがって、医師としては、黄疸を発 症した新生児に核黄疸の兆候がないかどうかを注意深く観察し、異常が見られる場合には、血清ビ値を測定するなどして、光線療法や交換輸血等の治療時期を逸 しないように注意し、仮に、自らその治療や黄疸症状を踏まえた措置(血清ビ値の測定や身体状況の管理)等を行うことが困難である場合には、相当な設備を もった医療施設に転医させる義務を負っていると解するのが相当である。
 そして、右の観察義務を履行するためには、その時々の症状経過や検査結果、とりわけ量的事実(経時的な観察が連続的になされてはじめて異常かどうかの判断資料となる事実、
例えば、黄疸の発症及びその経過、体重、哺乳力、体温、呼吸数、脈拍数等)をカルテに記載することが必要である。とくに新生児のように、二四時間の監視が 必要な者については、医師一人で観察を続けられるわけではなく、他の医師又は看護婦等との共同作業(チーム医療)になる(証人荻田一三、一四丁)のである から、その症状の変化を正確に把握するためには、黄疸の発生経過等のカルテの記載が不可欠といわざるをえない。
(二)被告は、カルテの記載について、一日の終わりにまとめて記載することが通常で、実際に観察を行っていても異常がない場合はカルテに記載しないことが 多い旨供述し(被告本人(イ)二九丁、同(ロ)三八丁)、荻田教授も、そのような例が多い旨証言する(証人荻田三七丁)。
 確かに、原告が主張するように、観察した項目については、異常のあるなしにかかわらず記載することが望ましく、そのことは日母マニュアルからも明らかである。しかし、荻田教授が証言するように、異常がない場合にカルテに記載しない風潮が存在することも事実である。
 思うに、カルテに記載があるかどうかということと観察を適切にしたかどうかということは次元の異なることであって、カルテの記載がないからといって、直 ちに医師が患者に対する観察を怠っていたとまで認めることはできず、量的事実についても、カルテの不記載自体から医師の観察義務違反を認めることはできな い。
 しかし、医療行為がチームでなされているにもかかわらず、量的事実がほとんどカルテに記載されていない場合は、カルテ記載の主要な部分において本来なす べきことを怠っているというべきであって、医療スタッフ相互に患者の異常をチェックすることが困難になるなど観察の杜撰さを窺わせる一つの資料となること はいうまでもない。
 被告医院においては、原告春子に対する医療行為を被告、副院長、看護婦などを含めたチームとして行っていたと認められるところ、本件カルテには、量的事 実のうち、体温を除いては正確な記載がなされていない。特に黄疸については、発症時期のみならず、その後の広がり、増強していった状況の記載がなく、ま た、呼吸数、脈拍数等の基本的な観察項目の記載もない。
 以上の事実を総合すると、被告の原告春子に対する医療行為には、観察の杜撰さが窺われる。 

===以上引用===


弁護士 堀 康司
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