2016年

10月

14日

日医職業倫理指針に医療事故調査への対応の必要性が明記されました

本年10月1日に、日本医師会は、『医師の職業倫理指針[第3版]』を発表しました。

平成20年以来、8年ぶりの改訂です。

 

今回の改訂では、45頁以下に医療事故の報告と調査に関する項目が設けられ、事故発生時の対応の基本的な方針が説明されるとともに、施設内事故調査報告制度の重要性が強調されています。

 

事故発生時の対応に関する解説部分を、以下に引用しておきます(赤字は小職による)。

 

 ===以下引用===

(1)医療事故発生時の対応
 診療中、患者に障害を与えるような事故が起こった場合、担当医はまず患者の治療
に全力を尽くすことが重要である。それとともに、患者や家族に対して事情を説明す
ることも大切である。
 事故発生後あるいは紛争発生後に、責任を逃れるために診療記録の改ざんをするよ
うな行為があってはならない。診療記録を訂正する必要がある際には、どこをどのよ
うに改めたかを分かるようにし、訂正した日時を記載し署名するなど、誰が何を訂正
したかを明らかにしておかなければならない。
 重大な医療事故については、担当医・医療施設の管理者は、まず患者・家族に十分
に説明することが大切である。また、明らかな過失による事故では、患者や家族に対
し謝罪するとともに誠意をもって対応しなければならない。とりわけ患者が死亡に
至った場合、遺族の強い願いは原因究明と再発防止であり、それは医療者の願いでも
あることから、死体解剖を行うように勧め、院内事故調査によって原因究明に当たる
必要がある。
 また、各医療施設や臨床に携わる医師は、すべて医師賠償責任保険や医療施設賠償
責任保険に加入しておく必要がある。
 なお、そもそも医療とは死亡の検証までも含むものであり、医療事故であるか否か
を問わず必要ならば病理解剖をして原因究明に努めるべきである。

 ===以上引用===

 

 

 

2016年

7月

08日

転送を遅延した病院による、早期転送時に転送先で行われる検査や治療が不明だとする主張を排斥し、主張立証責任を転換した事例

相当程度の可能性の存否が争点となった事例において、転送遅延の過失が認定された医療機関が、転送された場合の検査や治療内容は不明であると主張したことに対し、原告に立証責任を課すのは不当と判示した裁判例です。

東京地方裁判所平成24年(ワ)第27993号

平成27年2月18日判決

 

・・・これに対して,被告は,転送先でいつの時期にいかなる検査や治療が行われるかが不明であるから,相当程度の可能性があることについて立証ができていないと 主張する。

 

しかしながら,前記5で述べたところからすれば,6月22日に転送されれば,これに近い段階で,超音波検査等の網膜剥離及び網膜裂孔の有無を診断するための検査が実施され,これにより網膜剥離又は網膜裂孔の有無が確認されれば硝子体手術が実施されたと考えられる(実際に●●大学病院において7月21日に超音波検査が実施されている。)。

 

そして,実際に検査がなされなかった以上,検査が実施されていた場合の病状は不明であるから,前記検査が行われていれば,いつの段階でどのような硝子体手術が行われていたかについて原告に立証責任を課すのは不当であり,むしろ,被告において,6月22日に適切な医療機関に転送していても治療が奏功しなかったことを窺わせる特段の事情を主張立証すべきであり,被告の前記主張には理由がない。・・・

0 コメント

2016年

7月

08日

副作用を説明したとの医師の主張を排斥した事例

傍論ですが、カルテに記載のない事項について説明をしたとする医師の主張を排斥した裁判例が目にとまりましたので、メモしておきます。

東京地裁平成26年(ワ)第2944号

平成27年2月12日判決

 

・・・被告は,顔がむくむという副作用については説明したと主張するが,本件診療録にその旨の記載はないなど,同説明がされたことを認めるに足りる証拠はない。・・・ 

2015年

1月

27日

薬機法上の副作用報告義務

旧薬事法は平成26年11月の改正によって、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」との名称に変更されました。


略称としては、「医薬品医療機器等法」、あるいはもっと縮めて「薬機法」と呼ばれるようです。


さて、旧薬事法77条の4の2には、平成15年の改正によって、医薬品・医療用具等安全性情報報告制度が設けられていました(実施要領は平成15年5月15日医薬発第0515014号)。同条2項では、病院等にも報告義務が課せられていますが、あまり現場では周知されていないことも少なくありませんでした。


先ほど必要があって調べる機会がありましたが、この条文は、現行の薬機法では、68条の10に移動しています。

病院や医師等の医薬関係者の厚労大臣宛報告義務は第2項に規定されていますので、関係のある方は、是非一度この条文をよくお読みいただくとよいと思います。


医薬品医療機器等法(薬機法)
(副作用等の報告)
第六十八条の十  医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者又は外国特例承認取得者は、その製造販売をし、又は第十九条の二、第二十三 条の二の十七若しくは第二十三条の三十七の承認を受けた医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品について、当該品目の副作用その他の事由 によるものと疑われる疾病、障害又は死亡の発生、当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生その他の医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生 医療等製品の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省令で定めるものを知つたときは、その旨を厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に報告しな ければならない。


 薬局開設者、病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者又は医師、歯科医師、薬剤師、登録販売者、獣医師その他の医薬関係者は、医薬品、医療機器又 は再生医療等製品について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生又は当該品目の使用によるものと疑われる感染 症の発生に関する事項を知つた場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなけ ればならない。

 機構は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法 (平成十四年法律第百九十二号)第十五条第一項第一号 イに規定する副作用救済給付又は同項第二号 イに規定する感染救済給付の請求のあつた者に係る疾病、障害及び死亡に係る情報の整理又は当該疾病、障害及び死亡に関する調査を行い、厚生労働省令で定めるところにより、その結果を厚生労働大臣に報告しなければならない。

2014年

9月

14日

【判決温故知新】カルテ不記載の評価

■東京地裁平成4年5月26日判決(判タ798号p230)

 ===以下引用===

3 被告は、本件入院時、和美の血圧を測定しなかったことを否認し、その本人尋問において、和美の入院時の血圧が最高一六〇程度であり、最後の妊婦健診の時である三月二二日より低値であったため安心した旨の供述をしている。


 しかし、被告医院のカルテ及びその付属書類(〈書証番号略〉)に右の時点における血圧結果の記載がないことは、同号証によって明らかであり、被告も自認 するところ、カルテは、医師法二四条により医師がその作成を義務付けられ、診察治療に際してその内容及び経過に関する事項をその都度、経時的に記載すべきものであって、また、カルテは、看護日誌等これに付属する補助記録とともに、医師にとって患者の症状把握と適切な診療のための基礎資料として必要不可欠な ものであるから、記載の欠落は、後日にカルテが改変されたと認められる等の特段の事情がない限り、当該事実の不存在を事実上推定させる上、前示一2(一) の事実を〈書証番号略〉と対照すると、被告は、和美の初診以降、診察ごとに血圧を測定し、これを必ずプレグノグラムにグラフ形式で記載していたと認められ ること、前示一2(五)の状態からして、本件入院時、被告は、診断・処置内容をもれなく記載する余裕・機会は十分あったこと、カルテとともに編綴された看護日誌には、本件入院時の和美の子宮や児心音の所見については記載があることが認められ、カルテ及び看護日誌に血圧だけ、その記載が漏れたというのは不自 然であることを指摘でき、これらを併せ考えると、被告の右主張・供述は採用することはできず、他に前示認定を左右するに足りる証拠はない。

 ===以上引用===


■大阪地裁平成7年12月20日判決(判タ911号187頁)


 ===以下引用===

四 被告の責任について
1 観察義務及びカルテ記載義務
(一)前記のように、新生児核黄疸は、治療時期を逸すると新生児に回復不可能な脳障害や死に至らしめる危険性がある。したがって、医師としては、黄疸を発 症した新生児に核黄疸の兆候がないかどうかを注意深く観察し、異常が見られる場合には、血清ビ値を測定するなどして、光線療法や交換輸血等の治療時期を逸 しないように注意し、仮に、自らその治療や黄疸症状を踏まえた措置(血清ビ値の測定や身体状況の管理)等を行うことが困難である場合には、相当な設備を もった医療施設に転医させる義務を負っていると解するのが相当である。
 そして、右の観察義務を履行するためには、その時々の症状経過や検査結果、とりわけ量的事実(経時的な観察が連続的になされてはじめて異常かどうかの判断資料となる事実、
例えば、黄疸の発症及びその経過、体重、哺乳力、体温、呼吸数、脈拍数等)をカルテに記載することが必要である。とくに新生児のように、二四時間の監視が 必要な者については、医師一人で観察を続けられるわけではなく、他の医師又は看護婦等との共同作業(チーム医療)になる(証人荻田一三、一四丁)のである から、その症状の変化を正確に把握するためには、黄疸の発生経過等のカルテの記載が不可欠といわざるをえない。
(二)被告は、カルテの記載について、一日の終わりにまとめて記載することが通常で、実際に観察を行っていても異常がない場合はカルテに記載しないことが 多い旨供述し(被告本人(イ)二九丁、同(ロ)三八丁)、荻田教授も、そのような例が多い旨証言する(証人荻田三七丁)。
 確かに、原告が主張するように、観察した項目については、異常のあるなしにかかわらず記載することが望ましく、そのことは日母マニュアルからも明らかである。しかし、荻田教授が証言するように、異常がない場合にカルテに記載しない風潮が存在することも事実である。
 思うに、カルテに記載があるかどうかということと観察を適切にしたかどうかということは次元の異なることであって、カルテの記載がないからといって、直 ちに医師が患者に対する観察を怠っていたとまで認めることはできず、量的事実についても、カルテの不記載自体から医師の観察義務違反を認めることはできな い。
 しかし、医療行為がチームでなされているにもかかわらず、量的事実がほとんどカルテに記載されていない場合は、カルテ記載の主要な部分において本来なす べきことを怠っているというべきであって、医療スタッフ相互に患者の異常をチェックすることが困難になるなど観察の杜撰さを窺わせる一つの資料となること はいうまでもない。
 被告医院においては、原告春子に対する医療行為を被告、副院長、看護婦などを含めたチームとして行っていたと認められるところ、本件カルテには、量的事 実のうち、体温を除いては正確な記載がなされていない。特に黄疸については、発症時期のみならず、その後の広がり、増強していった状況の記載がなく、ま た、呼吸数、脈拍数等の基本的な観察項目の記載もない。
 以上の事実を総合すると、被告の原告春子に対する医療行為には、観察の杜撰さが窺われる。 

===以上引用===


0 コメント

2013年

10月

24日

医療安全対策に関する総務省の勧告

本年8月、総務省は、医療安全対策に関する行政評価・監視の結果に基づく勧告を発表しました。


医療安全対策に関する行政評価・監視<結果に基づく勧告>

 

これは、医療安全管理体制の確保に係る措置の実施状況について、19都道府県、都道府県が設置する21保健所、市又は特別区が設置する19保健所及び143医療機関(病院69機関、有床診療所56機関、無床診療所18機関)を調査した結果に基づいて、総務省が勧告をしたというものです。

 

評価と勧告の内容は多岐にわたりますが、「医療事故情報収集等事業の実効性の確保」に関して以下のように言及されている点が特に目にとまりましたので、ご紹介します。

 

 ===以下「勧告」より引用===
143医療機関のうち、事故情報収集等事業に参加しているのは45機関(報告義務対象医療機関26機関、参加登録申請医療機関19機関)ある。それら45医療機関による平成23年度の評価機構への報告状況をみると、 i) 当該医療機関で発生した医療事故に相当する事案を全て報告しているものが12機関(報告義務対象医療機関9機関、参加登録申請医療機関3機関)、ii) 当該医療機関で発生した医療事故に相当する事案のうち、当該医療機関の医療安全管理委員会等での審議を経て、その一部のみを報告しているものが29機関(報告義務対象医療機関17機関、参加登録申請医療機関12機関)、iii) 業務多忙による失念等により全く報告していないのが4機関(いずれも参加登録申請医療機関) となっており、評価機構では医療事故の発生状況が十分に収集・把握できていない状況となっている。
また、上記ii)に該当する29医療機関では、発生した医療事故8,570件のうち、
319件しか評価機構に報告しておらず、その理由として、i)評価機構が求める基準のうち「医療機関内における事故の発生の予防及び再発の防止に資する事例」のみが報告対象であると解していたため(1機関)、ii)医療事故の内容が高度(又は初歩的)であるものは、他の医療機関における発生予防や再発防止につながらないとして報告から除外していたため(2機関)などとしている。 このように、一部の医療機関には、法令等で定める事故等事案の内容が十分に浸透しているとは言えない状況となっている。
 ===以上引用===

以上の状況を踏まえ、総務省は厚労省に対し、次のように勧告しました。

 

 ===以下引用===

したがって、厚生労働省は、事故情報収集等事業の実効性を確保する観点から、医療機関に対し、それぞれの機関によって判断が異なることがないように法令等で定める事故等事案の内容を注意喚起するとともに、事故等事案の報告範囲について、事故情報収集等事業による事例の蓄積を踏まえた新たな具体例の提示を行うなど、その周知徹底に引き続き取り組む必要がある。

 ===以上引用===

 

適切な医療安全対策を実効するためには、何よりもまず、事故の実態を正しく把握する必要があります。上記勧告に沿って適切な改善策が打ち出されることに期待したいです。

2013年

9月

25日

トラキマスクによる気管切開チューブの閉塞

トラキマスクのずれによって、気管切開チューブが閉塞し、患者さんが呼吸停止・チアノーゼ状態となった状態で発見されたという事例に基づき、医薬品医療機器総合機構(PMDA)より医療安全情報が発表されました。

 

ポイントは、

 

○トラキマスクによって予期せぬ閉塞のリスクがあることを考慮して使用を検討すること

 

○トラキマスク装着時には、患者の状態に応じて生体情報モニタを併用すること

の2点です。

 

人工呼吸器や気道回路周辺の事故は、患者さんに対して致命的な影響が生じますので、この情報が医療現場で周知されることを期待したいです。


PMDA医療安全情報 No.39「トラキマスク取扱い時の注意について」

2013年

9月

24日

相当程度の可能性と慰謝料(子宮脱術後の血栓症)

子宮脱手術後の静脈血栓塞栓症発症の予防に関して、注意義務違反があると認定した上で、血栓症発症回避の高度の蓋然性は否定したものの、発症回避により後遺症が残らなかった相当程度の可能性はあると認定し、その点の慰謝料額を金800万円と判断した事例です。

 

「相当程度の可能性」判決においては、損害評価(慰謝料額)の幅が狭く解釈されることも少なくありませんが、本来あるべき幅の広さを示す事例として目にとまりましたので、ご紹介いたします。

 


平成23年12月9日 東京地裁 平成21(ワ)37543号 損害賠償請求事件(医療過誤)[一部認容〈認容額800円余〉]
  原告らが、被告の開設するF病院(以下「被告病院」という。)において子宮脱
の治療のために手術を受けた原告Aが肺血栓塞栓症を発症し後遺障害が残ったのは被告病院の医師らの過失によるものであるなどと主張して、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償金及び被告病院に入院した日(予備的に肺血栓塞栓症を発症した日)からの遅延損害金の支払を求めた事案
(民事第34部  森冨義明  大澤知子  西澤健太郎)

2013年

8月

30日

患者・被害者の考える医療事故調査の仕組みについての提言

2013年8月23日、医療事故情報センターは、「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」に対する提言を発表しました。

 

これは、厚生労働省の検討部会がとりまとめた医療事故調査の仕組みに対して、患者・被害者側の視点からの提言をまとめたものです。

 

次期医療法改正の中で、医療事故調査制度が立法化される見通しですので、よりよいものとなるよう、患者側からの声を伝えていきたいと考えています。

2013年

2月

19日

【医療安全情報】輸液ポンプ等の流量と予定量の入力間違い

今月15日付で、医療安全情報No.75が公開されています。

 

今回輸液ポンプを使用する際、指示された時間あたり流量と、投与の予定量とがあやまって入力された結果、大量の薬液が投与されてしまった事例が3例挙げられています。

 

輸液ポンプの安全対策としては、平成15年3月18日に厚生労働省が「輸液ポンプ等に関する医療事故防止対策について」(医薬発0318001号)という通知を発しています。この通知では、流量と予定量の双方を入力しないと作動しないようにするとともに、入力間違いを容易に発見できるように装置の視認性を向上させる措置を求めています。

 

この通知を踏まえて、医療事故対策適合品マーク付きのポンプが発売されているそうです(※参考:マーク貼付品リスト)が、今回公開された医療安全情報は、現場に適合品マークのない機種が混在していることに対して、注意を喚起するものとなっています。

 

多くの患者さんに対して頻回に使用される機器ですので、新人看護師さんに向けた研修等において、こうした通知が活用されることが望まれます。

 

この問題の根本的な解決のためには、安全対策が不十分な機器が現場で混在しているという状況を、できるだけ早く解消する必要があります。機器更新のために必要となるコストなどについても日本医療機能評価機構が試算を行い、国や自治体、中医協等に政策として提言していくというような発展的取り組みも期待されます。

0 コメント

2013年

1月

25日

【判決温故知新】措置入院中の医療過誤の責任主体

大分地方裁判所平成24年11月1日判決

【出典】裁判所ウェブサイト

 

措置入院中の気分安定薬炭酸リチウム錠(リーマス錠)の過量投与が疑われたケースについて、病院と患者との間に診療契約は成立しておらず、措置入院中の患者に損害を生じた場合には、都道府県等が国家賠償法1条1項による損害賠償責任を負うとし、病院開設者には診療契約上の責任や担当医師に関する使用者責任が生じないとした判例です。

7 コメント

2013年

1月

25日

【判決温故知新】アモキサン過量服用死亡事件:遺族によるカルテ開示申請後、電子カルテが改ざんされたとの事実を認定

大阪地方裁判所平成24年3月20日判決(一部認容・控訴)

【出典】判例タイムズ1379号167頁

 

三環系抗うつ薬アモキサンの過量服用で40代女性が死亡した事例に対する一審判決です。

 

午前5時ころ、夫は、患者本人より未明に大量服薬した事実を聞かされましたが、過去の過量服用時の症状は傾眠傾向が主であったことから、朝になったら処方した被告医院に受診しようと考えていたところ、午前7時台になって患者が四肢痙攣を来たしました。その時点で患者は救急搬送とされたものの、同日午前11時台に薬物中毒を原因として死亡しました。

 

裁判所は、患者に対して過量服用しないように指導しているため、患者本人に対して過量服用した場合の措置を指導することは適切ではないとしましたが、それまでの療養状況や生活状況を踏まえた上で、患者の夫に、患者が過量服用した場合には、医療機関の診療時間でなければ119番通報することも含めて直ちに医療機関を受診するよう指導する必要があるとして、その点について注意義務違反を認定しました。

 

被告医院は、電子カルテ上の記載に基づいて、患者に大量服薬の危険性を説明した、大量服薬するなら処方を中止すると告げた、夫に対しても薬剤管理の徹底を指導した、夫もこれを了承していたと主張しました。

 

しかし、裁判所は、これらの記載が、遺族である夫がカルテ開示申請を行った後になって記載されたものであること等に基づいて、改ざんであると認定し、被告医院の主張を退けました。

 

本件は、カルテ開示申請が改ざんの引き金となりうることを示す残念な実例です。カルテ開示が普及しつつある現在においても、証拠保全手続によるカルテ入手の必要性が否定されるものではないと考える必要があります。

 

本件の「電子カルテ」は、書き換えると書き換え前の記載を復元できない設定となっていたとのことです。このような設定が可能となっていたのであれば、電子カルテシステムに要求される3要件(真正性・見読性・保存性)のうち、真正性の要件から逸脱していることとなり、医師法24条の診療録作成義務への違反も疑われるところです。

 

なお、本記事作成現在の時点で、控訴審の結果に関する情報は得られませんでした。

以下、判決本文より抜粋。

イ 原告太郎は,同年5月12日,被告医院に対し,本件患者のカルテの開示を求めた。被告乙川は,同月15日,同月22 日及び同月23日に電子カルテである本件患者のカルテの一部を書き換えた後,同月26日,書換え後のカルテを原告太郎に開示した。なお,上記カルテは,当 時電子カルテでありながら,書き換えた際に書換え前の記載が保存されない設定になっていた。
(甲A6,乙A1,乙A2,乙A7,原告太郎本人,被告乙川本人,弁論の全趣旨)

(4)事実認定の補足説明
 上記認定につき,本件患者の電子カルテに,別紙診療経過一覧表の「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断)」欄記載のとおり,被告乙川において,本件患者が過量服薬した後の受診時に,本件患者又は原告太郎に対し,平成17年2月18日に大量服薬の危険性について説明し,同年3月7日,平成18年3月27日,平成19年2月10日にそれぞれ大量服薬について厳重に注意し,平成17年9月21日,平成18年4月10日,平成19年2月24日にそれぞれ大量服薬を行うのであれば薬剤の処方を中止する等と告げ,また,原告太郎に対し,同年1月29日,同年2月10日及び同月24日にそれぞれ薬の管理の徹底を指導し,原告太郎がこれを了承した旨の記載があり,被告乙川の陳述書(乙A7)及び本人尋問中には上記記載に沿う供述記載部分又は供述部分がある。
 しかし,上記カルテの一部が,本件患者の死後,被告乙川によって書き換えられていたこと(上記(3)イ),上記カルテが,当時電子カルテでありながら,書換えた際に書換え前の記載が保存されない設定になっていたこと(上記(3)イ),被告乙川の上記主張に係る診療日のカルテについては,いずれも被告乙川が上記開示請求後に新たにカルテのデータを保存することになる「登録」キーをクリックしていること(甲A6,乙A2,原告太郎本人,被告乙川本人),被告乙川は,上記乙A7(陳述書)及び本人尋問において,いったん画面を開いたカルテの画面を閉じる際には,常に「登録」キーをクリックする習慣になっており,上記開示前に上記カルテの内容を確認しようと考え,画面を開いて上記カルテの内容を確認した上で明らかな記載漏れや誤字のみを訂正したと弁解をしているが,実際には,上記カルテのうち,「処方・手術・処置等」以外の部分のうちの一部のみにつき「登録」キーをクリックしており(甲A6,乙A2,原告太郎本人),上記弁解が不合理であること,上記認定のとおり,原告太郎は,当初は,本件患者に処方された薬剤を管理していたものの,平成18年4月13日に本件患者が鍵のかかった手提げ金庫をこじ開けて過量服薬したことが原因で,自らも過量服薬した後は,本件患者に処方された薬剤の管理をしなくなっており,また,平成19年1月23日の受診時には,被告乙川に対し,自らの抑うつ症状の悪化で出勤することが困難な状態である旨を訴えていたものであるところ,そのような原告太郎が,被告乙川から上記薬剤の管理を徹底するよう指示されてそのままこれを了承したとは考えられないことに証拠(甲A5,甲A6,原告太郎本人)を併せれば,被告乙川は,被告太郎から上記カルテの開示請求を受けた後,上記カルテを改ざんし,上記各記載を付加したものと認められる。したがって,上記各記載は,上記認定を左右しない。

0 コメント

2012年

12月

21日

医薬品・医療機器による事故の報告義務

医療機関開設者や医師をはじめとする医療関係者には、医薬品や医療機器の副作用等によると疑われる死亡や障害が発生した際、被害の発生拡大防止の必要があるときは、厚生労働大臣に報告することが、薬事法によって義務づけられています(条文は末尾参照)。

 

医薬品や医療機器は、多くの医療機関に普及していることがほとんどですので、自院で医薬品や医療機器の不具合に起因する死亡や身体障害を生じた場合には、ほぼ常に被害の発生防止の必要が認められるはずです。

 

しかしながら、こうした報告義務が課せられていることは、医療現場でほとんど知られていないようです。

 

医療事故が医薬品や医療機器に起因するものと疑われるときは、他院における同種事故予防のために、病院や医師自身が速やかにこの届出を行うことを心がけていただきたいと思います。

 

<平成15年改正薬事法77条の4の2・2項>

 

薬局開設者、病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者又は医師、歯科医師、薬剤師、登録販売者、獣医師その他の医薬関係者は、医薬品又は医療機器について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生又は当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生に関する事項を知つた場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。

0 コメント

2012年

11月

12日

千葉医療問題研究会による医療事故無料相談会

千葉県弁護士会所属の弁護士有志によって構成される千葉医療問題研究会が、平成24年12月8日(土)13時~17時に、医療事故無料相談会を開催するそうです。

 

当日は、面会相談(事前申し込み必要)と電話相談を受け付けるとのことです。

 

詳細は、こちらをご参照下さい。

2012年

10月

23日

気管切開チューブ留置中の注意点

本年10月22日付で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が医療安全情報No.35を公表しました。


■PMDA医療安全情報 No.35

気管切開チューブの取扱い時の注意について

 

内容は、気管切開チューブの脱落防止に関する注意点と、脱落後の再挿入時の皮下迷入に関する注意点を解説するものとなっています。

 

人工呼吸器とチューブの管理に関連する医療事故は、これまでにも多数の事例が報告・報道されています。

 

例)愛知県心身障害者コロニー中央病院医療事故調査委員会の調査報告書について

抜管困難症の改善のため気管切開術を受けた生後9 か月の患者が、術後5
日目の平成24 年1 月22 日に気管カニューレの気管からの逸脱(創部内)によると思われる換気不全を起こし、救急救命処置を行って一旦は蘇生されたものの、翌日の23 日未明に容体が悪化し、同日早朝、死亡するに至った事故

 

2011年5月には、日本医療機能評価機構より医療安全性情報No.54「体位変換時の気管・気管切開チューブの偶発的な抜去」が公表されていますので、こちらもあわせて参照いただくとよいと思います。

 

 

 

 

 

0 コメント

2012年

9月

26日

手動式肺人工蘇生器の組み立て過誤

本日、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業第30回報告書が公表されました。

 

今回の報告書では、組み立て方を誤った手動式肺人工蘇生器を使用した2つの事例が詳しく報告されていることを(p151以下)、共同通信などが報じています(「呼吸補助器ミスで患者死亡 組み立て方誤り蘇生に支障」)。

 

事例1は、MMI蘇生バッグの洗浄・組み立ての際に、逆止弁ユニットとエアー吸入アセンブリーの2カ所の部品を間違って組み立てた事例です。

 

事例2は、アンブバッグの膜弁の装着間違いがあった事例です。

 

いずれも低酸素脳症を経て死亡するという痛ましい結果となっています。

 

先日公開の場で行われた愛知県立病院医療事故防止対策委員会においても、同種の組み立て間違い事例(幸い健康被害は発生しませんでした)が報告されています。ヒヤリ・ハットのレベルを含めると、他にも多くの事例があるのではないかと推察されるところです。

 

今回の報告書のまとめは、以下のとおりとなっています。

 

「手動式肺人工蘇生器は組み立て方を誤ると患者に重大な影響を及ぼすことがある。

 組み立て方を誤っていたとしても、抵抗や違和感なく組み立てることができ、バッグを押すことが可能な場合もある。さらに外見上ではその誤りに気づくことが困難である。

 従って、手動式肺人工蘇生器を組み立てる際には、その原理・作動を十分に理解しておくことが重要であり、組み立てた後に正常に作動するかどうか、機能試験が必要である。

 また、患者に使用する前にも機能試験は必要であり、統一された手順書に沿って確実に行えるよう医療機関内で取り組む重要性が示唆された。」(p157 赤字は引用者による)

 

間違いのない手順での組み立てや、その後の点検が必要であることは当然ですが、間違っていても違和感なく組み立てることができて外観上区別がつかないという機器の構造そのものを改善することが大切です。是非、各メーカーのエンジニアの方には、そうした改善に向けた取り組みを御願いしたいと思います。

 

また、あまり知られていませんが、薬事法77条の4の2は、医療機関に対し、医療機器に起因する事故を厚生労働大臣宛てに報告する義務を課しています

 

同種の事故やニアミスを経験した医療機関の方は、院内での事例報告にとどまらず、他院での再発防止につなげるために、国とメーカーにも事例情報を伝えていただきたいと思います。

 

 

 

 

2012年

9月

11日

ランマーク皮下注120mgによる重篤な低カルシウム血症

医薬品医療機器総合機構が、ランマーク皮下注120mg(適応症:多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変)による重篤な低カルシウム血症について、安全性速報を発出しました。

 

2012年4月17日販売開始後、同年8月31日までの間に、約7300人(推定)が使用し、重篤な低カルシウム血症32例が報告され、そのうち、死亡原因との関連が完全には否定できないとされた例が2例報告されているとのことです。

 

関係者の方はくれぐれもご留意下さい。

 

【安全性速報(ブルーレター)】
・(医療関係者向け)ランマーク皮下注120mgによる重篤な低カルシウム血症について
http://www.info.pmda.go.jp/kinkyu_anzen/file/kinkyu20120911_1.pdf
・(国民(患者)向け)ランマーク皮下注120mgを使用される患者様とご家族の皆様へ
http://www.info.pmda.go.jp/kinkyu_anzen/file/kinkyu20120911_2.pdf

 

2012年

9月

08日

【判決温故知新】下垂体腺腫治療法の説明義務違反と死亡との因果関係を肯定した事例

福岡地裁小倉支部平成15年6月26日判決

【出典】判例時報1864号124頁

17歳女性がプロラクチン産生下垂体腺腫に対して開頭手術が実施されたところ、術後脳梗塞を合併して死亡。下垂体ホルモン内分泌検査を怠り、薬物治療の選択肢を説明しなかった説明義務違反を認定。適切な説明を受けていれば、開頭手術を選択しなかった可能性は多分にあったとして、説明義務違反と死亡との因果関係を肯定。約7200万円の賠償を命令。1審で確定。

亡Fの主治医である被告E医師は,血中プロラクチン値の測定を含む下垂体ホルモンの内分泌検査を怠り,速やかになすべきプロラクチン産生腺腫の確定診断を遅らせ,未確定で不十分な病状の把握を前提に開頭手術を実施するという治療方針を立て,プロラクチン産 生腺腫の確定診断に基づく治療方針の再検討を行わなかったばかりか,亡Fの治療に関して説明義務を負う相手方である原告らに対し,実施予定の治療行為であ る開頭手術を受けるか否かを熟慮し,決断する前提として必要な説明をせず,必要な説明を前提とした同意を得なかったものであり,治療方法の選択,決定段階 における医師の注意義務に違反した過失があるというべきである。

(中略)

ア 本件においては,本件開頭手術が実施されたことにより,術後脳梗塞が発生し,その後,脳梗塞の検査や診断を怠り,外 減圧開頭手術の実施が遅れたという被告E医師の過失を経て,亡Fを死亡させるに至ったものであるから,本件開頭手術の実施が亡Fの死亡の根本的な原因と なった行為であるといわざるを得ない。
 すなわち,前判示のとおり,本件開頭手術の手術操作上の注意義務違反は認められないとしても,本件開頭手術を選択し,実施していなければ,上記の経過をたどって亡Fが死亡することもなかったというべきである。
イ 平成4年当時,下垂体腺腫に対する手術の多くは経蝶形骨洞法によるものであったこと,本件のような大型で浸潤性のプロラクチン産 生腺腫に対しても経蝶形骨洞法の適応を肯定する見解が存在したこと,身体に対する外科的侵襲を伴わないブロモクリプチンによる薬物療法を第1次的に行うと いう見解も存在したこと,開頭手術は,麻酔による合併症,再出血,痙攣,脳浮腫,感染,尿崩症,内分泌異常,精神症状や,眼球運動障害という重篤な後遺障 害を発生させる危険性のある治療方法であること(被告E医師本人)は,前記認定のとおりである。これらの事実に加えて,原告Aは,6月22日に被告E医師 から開頭手術の必要があるとの説明を受けてショックを受け,書店で文献を調べたり,知人に相談したりしたものであり(前記認定),開頭手術を受けることに ついて必ずしも積極的な姿勢ではなかったこと(原告AがI教授による執刀を希望したのは,頭蓋咽頭腫が最も疑われ,その場合に開頭手術が必要になるとの説 明を受けた後のことであるから,原告Aの開頭手術の実施に対する積極性を示す行為ではない。),原告らがいずれも医師であり,開頭手術の必要があるとの説 明を受けたその日のうちに,I教授が開頭手術の権威であるとの情報を知人から得ていたことからみても,代替的治療方法の説明を受けていれば,その治療方法 を実施している医療機関などについて自ら調査する意欲と能力を有していたといえること,さらには,その場合には,亡Fに別の医療機関を受診させる可能性が あったといえることなどの事情を併せて考慮すれば,確定的かつ正確な病名及び病状の説明がなされ,それを前提にして,開頭手術以外の代替的治療方法である 経蝶形骨洞手術やブロモクリプチンによる薬物療法の内容,利害得失,予後等の説明がなされていたとすれば,原告らは,本件開頭手術に同意するのではなく, 他の希望を申し出た可能性は多分にあったというべきであり,亡Fの死亡の根本的な原因となった本件開頭手術の実施が避けられた可能性は十分にあったという べきである。



2012年

8月

28日

カルテ開示の理由を聞かれたら

「診療録の開示請求の際に、病院から何のために使うのかと聞かれたら、どう答えたらよいでしょうか」というご質問を受けることが少なくありません。

 

もともと、平成16年に厚労省が定めた「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」では、「開示等の求めの方法は書面によることが望ましいが、患者・利用者等の自由な求めを阻害しないため、開示等を求める理由を要求することは不適切である。」と明記されていました。

 

しかし、この点が現場で徹底されていないことを受け、平成22年には、次のとおり改正され、現在に至ります。

 

「開示等の求めの方法は書面によることが望ましいが、患者・利用者等の自由な求めを阻害しないため、開示等の求めに係る書面に理由欄を設けることなどにより開示等を求める理由の記載を要求すること及び開示等を求める理由を尋ねることは不適切である。」

(平成22年9月17日/医政発0917第2号/薬食発0917第5号/老発0917第1号)

 

医療現場では、このガイドラインにあるように、開示を求める理由を聞いたり書かせたりしないようにしていただきたいと思います。

 

もし、理由を聞かれて困ったときは、このガイドラインがあることを病院に伝えるとよいと思いますが、どうしてもそういった対応を取ることは気が引けるという場合には、「記録の保存のため」「診療経過の確認のため」といった程度の目的を書いておけば、問題なく開示を受けることができるはずです。

 

このように、開示の理由は本来書く必要はない、ということを知っているだけでも、窓口で気後れせずにすむと思います。

 

2012年

8月

10日

研修医の労働者性

最近、あるところで、研修医の賃金支払いと労働者該当性について質問を受けました。

 

この問題については、2005年に最高裁判所が次のような判断を示していますので、このブログでも紹介しておきます。

 

最高裁判所第二小法廷平成17年06月03日判決

「臨床研修は,医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり,教育的な側面を有しているが,そのプログラムに従い,臨床研修指導医の指導の下に,研修医が医療行為等に従事することを予定している。そして,研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たるものというべきである。」

2012年

8月

06日

ブログの移転について

事務所サイトの移転に伴い、ブログもこちらに移転しました。

元のサイトへのリンクを張っておきます。

 

医療安全備忘録(旧サイト)

弁護士 堀 康司
Yasuji Hori

〒461-0001
愛知県名古屋市東区泉1-1-35
ハイエスト久屋4階
堀法律事務所
tel 052-959-2556
fax 052-959-2558