担当医が研修医であったことを理由とする病院側弁明を排斥した事例

静岡地方裁判所平成30年(ワ)第137号
令和3年8月31日民事第2部判決

 

 ===以下引用===

ウ 本件CT画像読影時の環境及びCT画像読影に関する知識の保有状況(乙A9,被告P4本人,証人P6,証人P7)
(ア)AQnetでは,初期設定においては,脂肪の組織と空気が同様に黒く写ってしまうが,画像濃度を変更すれば,初期設定よりも両者の違いが鮮明となり,脂肪と空気の区別が比較的容易になる。
(イ)被告P4は,AQnetの初期設定状態であっても,遊離ガスがないかを注意深く見れば本件CT画像上の遊離ガスを発見でき,また,画像濃度を変更すればより鮮明に遊離ガスが見えることを認識していた。

(ウ)P6医師は,平成27年10月25日当時,AQnetを腹部CT画像の読影に使用した経験があまりなかったが,普段使用している電子カルテシステムでCT画像を見る場合にも,濃度変更をした方が見やすくなるという認識を有しており,AQnetでも濃度変更ができることは認識していた。
 また,P6医師は,本件CT画像上,遊離ガスが認められた場合には,直ちに消化器外科の医師に相談する必要があると認識していた。
(エ)P7医師は,平成27年10月24日から同月25日にかけての深夜当時,被告P4らから連絡を受けた場合には約5分後には被告病院に到着し,診察をすることができるように待機していた。また,P7医師は,AQnetで腹部CT画像を見る場合,初期設定のままでは脂肪と空気の判別がしづらいことを認識していた。さらに,P7医師は,本件CT画像上,遊離ガスを発見した場合には消化管穿孔を含めた鑑別をすべきであり,大腸穿孔の場合には緊急性が高く,穿孔部に遊離ガスが認められる状況であれば開腹手術を施行すべきであるという認識を有していた。

 

(中略)

 

医師は,人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者として,その業務の性質に照らし,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される(最高裁昭和31年(オ)第1065号・同昭和36年2月16日第一小法廷判決・民集15巻2号244頁参照)が,その注意義務の基準となるべきものは,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。

 

(中略)

 

イ 被告らは,被告P4が研修医であったことを理由として過失がない旨主張するが,前記(1)のとおり,過失の判断は,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準によるべきであって,被告P4が研修医であったかどうかはこの点において考慮されるべき事情ではない。また,認定事実(2)ウ(エ)のとおり,そもそも,被告P4はP7医師の判断を仰ぐことも可能であったのであるから,被告らの当該主張は,前記認定判断を左右しない。

 ===以上引用===

弁護士 堀 康司
Yasuji HORI

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