不作為による注意義務違反における過失時期に関する主張の包括性

 

 医療過誤訴訟において、不作為(やるべきことをやっていないこと)が注意義務違反に該当する場合、過失の時期を1つの時点に特定することは困難であり、ある時期に不作為があるとする主張は、それ以後、必要な作為が行われるまでの経過のいずれにおいても不作為が認められるとする主張を包含しています。

 

 当たり前ではあるのですが、そのことを正面から認める判断を示した裁判例がありますので、ご紹介します。入院中の高齢患者の病態悪化を踏まえた高次医療機関への転院義務が争点の1つとなった事例です。

 

損害賠償請求事件
大津地方裁判所平成28年(ワ)第323号
令和2年3月26日民事部判決
口頭弁論終結日 令和元年10月31日

ウ 以上によれば,13日の時点における亡P3に対する治療として,担当医であるP4医師は,亡P3の各症状の個別の対症療法ではなく,呼吸,循環,腎臓,感染,栄養等の観点から統一的な治療によって増悪した臓器の機能を回復させつつ,これら個別の臓器症状をもたらした本態である血流低下の原因を除去するための根治的治療を実施することが必要であり,被告病院においてこれが困難である以上,ICUのある医療機関に転院させ,同医療機関において適切な治療を行わせる義務があったというべきである(なお,原告は,亡P3の上記の病態の推移を捉えて,そのうち最も早い10日の時点での転医義務を主張するものであるが,それ以降の時点での転医義務をも黙示的に主張しているものと解されるのであり,そのように解したとしても,被告に不意打ちになるものではない。)。

弁護士 堀 康司
Yasuji HORI

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