精神科開放処遇患者の無断離院後の転落死と近親者への説明義務

患者本人の意思能力が制限的である場合に、法定代理人的立場にある近親者についても説明義務があることを判示した裁判例です。

 

 

■高松高等裁判所令和元年(ネ)第109号
 令和3年3月12日第2部判決

 

 ===以下引用===


3 被控訴人の説明義務違反の有無(予備的請求関係)(争点(2))について

(1)説明義務の発生と説明すべき内容について

ア 医師の説明義務は,患者が自らの意思で当該医療行為を受けるか否かを決定
するという人格権の一内容としての自己決定権と直結したものであり,医師は,
患者が自らの意思でいかなる医療行為を受けるかを決定することができるように,
当該疾患の診断,実施予定の療法の内容,危険性など必要な情報を説明すべき義
務がある。

 そして,医師の患者に対する説明義務が発生する典型的な場面は,患者の身体
に対する侵襲行為の同意の前提としての説明義務であるものの,説明義務が患者
の自己決定権の前提となるものであることからすると,当該患者が自己決定をす
るにあって必要と考えられる事項の説明をすべきであるといえる。

 したがって,医師としては,通常の患者が必要とする情報のほか,特にその患者
が関心を持っている情報については,その希望に相応の理由があり,医師におい
てそうした患者の関心を知った場合には,当該患者が自己決定をする上で必要な
ものとして,その情報も提供すべき義務,すなわち,説明義務があると解するの
が相当である。

(中略)

 そうであるとすれば,dにとって,本件病院における無断離院防止策の有無・
内容が本件診療契約上の重大な関心事項であった以上,e医師は,本件診療契約
上の債務に付随する信義則上の義務として,dに対し,本件病院においては,平
日の昼間は,門扉は開放され,その管理をしておらず,特段の無断離院防止策を
講じていないため,院内単独外出許可を受けた患者自身で無断離院をしないよう
に注意しなければ,無断離院して自殺事故の危険性があることを説明して,dが
本件病院のほかに,無断離院防止策を講じている病院と比較して,入院すべき病
院を選択できる機会を保障する義務を負っていたと解するのが相当である。

(2)説明すべき相手方について

ア 上記のとおり,説明義務は,患者の自己決定権を保障するためのものである
から,医師が上記説明義務を履行すべき相手方は,原則として患者本人であるが,
患者本人に意思能力があるか疑わしい場合には,患者本人に加えて,患者の法定
代理人又はそれに代わるべき近親者の双方に対して説明をする義務を負うと解す
るのが相当である。

 

 ===以上引用===

 

弁護士 堀 康司
Yasuji HORI

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