口頭説明と事実認定

東京地方裁判所平成28年(ワ)第19200号
平成30年5月31日民事第35部判決より

エ 被告P4医師が原告に対してランマーク投与前に6か月間の避妊が必要である旨を説明していたかについて(前記(1)エ(ウ),オ(エ))

 

(ア)被告らは,被告P4医師が,平成28年1月19日,原告に対し,ランマーク投与前に,ランマーク投与後に6か月間の避妊が必要である旨を説明したと主張し,被告P4医師もその旨供述,陳述する(乙A2・3頁,被告P4医師本人9,10,19,21,25頁)。

 

(イ)しかしながら,同日のカルテにはP(計画)欄に「相談しランマークは開始する。」(乙A1・15頁)とあるのみで,被告P4医師が原告に対してどのような説明をしたのか,その要点すら記載がない。

 

 この点について,被告P4医師は,原告が外来患者であることから,簡略化した記載もやむを得ないと供述するものの(被告P4医師本人10,19頁),初診時,「今後の加療」として「RI,分子標的薬」について原告に情報を提供する旨の診療計画を立て(乙A1・2頁),アブレーションに関してはその後も相応に記載していること(乙A1・4,12~14頁),ランマークは従前のTSH抑制療法とは別の分子標的薬療法で初めて実施するものであること,カルテは事後的に内容を補充加筆することも可能であることからすると,簡略化しただけであるとの上記主張はにわかに採用することができない

 

 また,平成28年2月2日の診察の後,同月9日にそれまで継続的に原告を診察していた被告P4医師ではなくP6医師が原告の診察を行い(前記(1)ク(ア)),それに引き続き,被告P4医師とP5フロアマネージャーが原告と面談し,その際に,ランマーク投与後6か月は妊娠ができないと原告が認識して,ショックを受け,被告P4医師に抗議したと認められる(乙A2・5頁,原告本人14頁)ところ,かかる事情は,同年1月19日,被告P4医師が原告に対してランマーク投与前に,投与後には6か月は避妊すべきことになると説明していたことと相容れないものであるといえる。

 

 なお,被告P4医師は,同年2月9日,同人が妊娠の「希望日程があるのであれば,それに合わせて休薬することを事前に伝えてある。」と発言した直後に,原告が「私も言われた時すぐ打つと了承したのは事実である。」と認めていると供述,陳述するが(乙A2・5頁,被告P4医師本人12頁),同日のやりとりについては,カルテ上「妊娠希望について,ランマークの投与について,診療態度について本人の思うところを話してもらった。当方との少しの理解のズレにより諸問題が生じたと考えられる。上記について話をし,納得された。」と記載されているのみで(乙A1・19頁),その詳細は,明らかでないし,少なくとも原告の認識が被告P4医師と異なっていたこと自体は推認できる上,上記原告が「言われた時」と発言したことがあったとしても,その趣旨は,ランマークを投与すると言われたことのみを指すのか,ランマーク投与後に避妊すべき期間があることも加えて言われたことまで指すのかは明らかではなく,同日のやり取りに関する被告P4医師の上記供述,陳述は採用できない。

 

 これらに対し,被告P4医師は,同年1月19日,原告に対し,ランマークについて,投与後6か月間避妊する必要があることを説明した後,パンフレット(甲B1)を手渡したと供述する(乙A2・3,4頁,被告P4医師本人9,10頁)。しかし,同パンフレットには,ランマークを投与するに際して妊娠・避妊をすべきであるか等に関する記載がないのであるから(前記(1)オ(ウ)),同パンフレットを交付したことにより,原告に対して避妊する必要があることを説明したことにはならない。
 このほか,被告P4医師は,同日,原告に対し,妊娠の具体的な予定が決まったらその時点でランマークを休薬すると伝えたかのようにも供述するものの(乙A2・3,6頁,被告P4医師本人20,21頁),カルテにその旨の記載はないことからして(同年2月2日のカルテには同趣旨の記載がある(前記(1)キ(ウ)),同供述は採用できない。


 これらの事情を併せ考慮すれば,本件病院のカルテの記載やランマーク投与後の原告と被告P4医師らの交渉経緯等からして,被告P4医師は,同年1月19日,原告に対してランマーク投与前に6か月間の避妊が必要である旨を説明しなかったと認められる。


(ウ)なお,被告P4医師は,同月12日の診察時にもランマークについて話題にしたかのように供述する(被告P4医師本人8頁)。


 しかし,同日のカルテにその旨の記載がない上(乙A1・13,14頁),ランマークという言葉を言ったかどうかという点についての同人の供述が曖昧であること(被告P4医師本人8,34頁)に照らし,被告P4医師の上記供述は採用できない。


(エ)以上により,被告らの上記(ア)の主張は採用できず,前記(1)エ(ウ),オ(エ)のとおり認定した。

弁護士 堀 康司
Yasuji HORI

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